コロナウイルス感染防止のため、在宅勤務を導入したにもかかわらず、“押印”のためだけにわざわざ出社を余儀なくされるといった非効率さが問題となりました。
即、“脱ハンコ”の気運に反応したネットインフラ大手の[GMO]は、「決めました。GMOはハンコを廃止します」と宣言。その後、[サントリー]や[LINE][サイバーエージェント][メルカリ]などに波及。昨年から徐々に電子契約を導入していた[ヤフー]も、一気に導入速度を速める方針に転換。
9月、政府は「クラウドを介した契約書の電子署名について法的効力を認める」と公表。さらに同月、河野行革担当相は『デジタル改革閣僚会議』において、「ハンコを、すぐになくしたい」と述べ、平井デジタル改革相も賛同。ある意味、お上から“お墨付き”が与えられたことで、企業の“脱ハンコ”への理解が進むと同時に、インターネットを通じて押印したり契約を結んだりできる電子印鑑システムの普及に弾みが付き、関連サービスの提供も活発化。
[シャチハタ]は今年3月、パソコンで作成した電子ファイルに、事前登録した電子印鑑(日付・部署名入り)を押印でき、PDF化してネット上で回覧できる「パソコン決済クラウド」を開始。[弁護士ドットコム]は、ウェブ完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」を提供。[セイコーソリューションズ]も電子契約を支援するサービスの提供を始めました。
ただし、いずれも取引先の了承を得られることが条件となり、強要するわけにもいかないため、普及上のネックの一つとなっています。
印紙税や郵送費が不要となるコストの削減に加え、書類の印刷・製本・送付・保管といった諸作業が不要に。また、データのバックアップも容易になるなど、“ハンコレス”のメリットは少なくありません。ただ、現実に導入しているのは大手企業、それもIT関連が中心。日本企業の99.7%を占める中小企業にとっては、“テレワーク→脱ハンコ”がそれほど現実味を帯びていないといえます。従業員数50人未満のテレワーク導入率は約14%(東京商工会議所)。例えば、社員20人以下の会社なら、承認や決済でハンコをもらう相手が隣の席に座っているということも。“あったらあったで便利かもしれないけど、なければないで業務に差し障りはない”というのが大多数の声であり、この現実が脱ハンコの最大の障壁となりそうです。
「これまで3日かかっていた見積書の取得が30分に短縮できた」「印紙代を年間数千万円削減することができる」-----一度使うと便利で、もう元には戻れないと語るハンコ要らずの電子契約。しかし、官民挙げての“脱ハンコ”の流れに水を差すわけではありませんが、この盛り上がりが、今のところ日本企業のわずか0.3%の話である現実を忘れてはいけません。
※参考:
GMOインターネットグループ https://www.gmo.jp/
シャチハタ https://www.shachihata.co.jp/
弁護士ドットコム https://corporate.bengo4.com/
セイコーソリューションズ https://www.seiko-sol.co.jp/
日経ビジネス電子版(2020年4月20日付)
朝日新聞(2020年4月24日付)
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