近年、「YouTube」などの動画投稿サイトで若者を中心にヒートアップし、世界的なブームとなっている「ASMR」というちょっと変わった動画をご存じでしょうか。読み方は、ローマ字読みで「エーエスエムアール」、または略して「アスマー」とか「アズマー」と呼ばれることもあります。
10年ほど前に米国で誕生したASMRは、「Autonomous Sensory Meridian Response=オートノマス・センサリー・メリディアン・レスポンス」の略で、「自律感覚絶頂反応」の意味です。と言われてもなんのことやらですが、一言で言い当てる適切な日本語訳がなく、強いて言うなら、“特定の音を聞くことで脳が刺激され、じんわりととろけそうになるくらいの快感を覚える現象”というニュアンス。
それらを、コンテンツとして映像とともに配信されるのが「ASMR動画」で、日本でも“音フェチ動画”と呼ばれ、2017年あたりから急速に認知度がアップ。例えば、食べ物を食べている咀嚼音、ガスバーナーの燃焼音、炭酸水の泡が弾ける音、雨粒が傘に当たる音、焚き火のパチパチ弾ける音……ただのノイズでしかなかったような日常の生活音をフィーチャーすることで、“快感”という要素が加わった新しいヒーリングサウンドになる、それがASMR動画なのです。これらの音は、より立体的に聞こえるようにと、特殊な“バイノーラル(立体音響)マイク”を使って収録されます。そのため、ASMR動画の超臨場感に浸るには、イヤホン(ヘッドホン)の使用が絶対条件となります。
欧米や韓国で爆発的な広がりを見せているASMRですが、こんなホットなコンテンツを企業が放っておくはずがありません。
[ケンタッキー(KFC)]は、今年4月に発売した「パリパリ旨塩チキン」のPR動画にASMRを活用。その名の通り、“パリパリッ”という食感が訴求力を発揮して想定の1.5倍の売れ行きを実現。
[森永製菓]も4月、チョコアイス「パキシェル」のブランドプロモーションで“パキッポキッ”という食感をアピール。テレビCMを一切せず、ネットで“音”を訴求した結果、2018年度の販売量が5年前の2.6倍に拡大したといいます。
[IKEA]では、商品の心地よさを伝える手法としてASMR動画を採用。ベッドのシーツを静かに撫で触ったり、机や卓上スタンドをコツコツと叩く音などが25分間流れるというもの。同社の他の商品紹介動画と比べ、100倍以上の再生回数を獲得しました。
商品の魅力を全く新たな角度から伝えることができるのが、ASMR動画を使った広告のメリット。実際、ASMR動画を見てから、それを食べるかどうかを決めるという人が増えています。事前にASMR動画で、その商品の咀嚼音を聞いて“食欲の予習”をしておくと、普通に食べる2〜3倍はおいしく感じるという体験談も。
音から、食欲や購買欲を刺激する新しいマーケティングの可能性を秘めたASMR。“音映え”がトレンドとなる時代がやってきたようです。
参考:
日本KFCホールディングス http://japan.kfc.co.jp/
森永製菓 http://www.morinaga.co.jp/
IKEA http://www.ikea.com/jp/
宣伝会議(2019年4月号)
日経МJ(2019年5月31日付)
|